2025.04.25
中小企業の情シス部門をアウトソーシングするメリットと成功のポイント
企業の情報システム部門(情シス)が抱える人的リソース・知識・コスト管理などの課題は、アウトソーシングで解決可能です。ここでは、アウトソーシングがもたらすメリットと、その導入を成功に導くための具体的な手順について詳しく解説します。
中小企業が直面する情シスの課題
現代のビジネス環境において、ITの活用は企業の成長と競争力維持に不可欠です。しかし、多くの中小企業では情報システム部門(情シス)が様々な課題を抱え、そのポテンシャルを十分に発揮できずにいます。限られたリソースの中でIT戦略を推進していくことの難しさは、多くの経営者や担当者が実感しているところでしょう。
人材不足と専門知識の壁
ITスキルを持つ人材は採用競争が激しく、獲得が困難です。加えて、技術は日進月歩で進化しており、クラウド、AI、サイバーセキュリティなど、常に新しい知識やスキルが求められています。社内での専門的なトレーニング体制を整備することも容易ではありません。
このような状況は、しばしば「ひとり情シス」と呼ばれる担当者が一人またはごく少数で幅広いIT業務を担う厳しい体制を生み出してしまいます。担当者への業務集中は、過重労働を招くだけでなく、特定の担当者しか業務内容を把握していない「業務の属人化」という会社として大きなリスクも伴います。担当者の急な病気や退職が、業務の停滞に直結しかねません。
コスト管理の難しさ
ITへの投資は企業の成長に不可欠ですが、その費用対効果を明確に測定することは簡単ではありません。とくに中小企業では、IT投資が具体的にどのように売上や利益に貢献しているのかが見えにくく、経営層が投資判断に迷うケースも少なくないでしょう。限られた予算の中で、どの分野にどれだけ配分するかの最適化も難しい課題です。
また、専門知識を持つIT人材の人件費は固定費として大きな負担となり得ます。ハードウェアやソフトウェアも定期的な更新が必要であり、計画的な予算確保が求められますが、突然のシステム障害やセキュリティインシデント対応など、予期せぬIT関連の出費が発生する可能性も常に存在します。これらのコスト要因が、中小企業のIT戦略における悩みの種となっています。
企業の「デジタル化」への対応の遅れ
デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性が叫ばれる中、多くの中小企業ではその推進が思うようには進んでいません。何から手をつけるべきか、どのように進めるべきか分からず、結果としてデジタル化への対応が遅れがちです。長年利用してきた基幹システムなどが老朽化し、「レガシーシステム」となっているケースも少なくありません。
最新のシステムを何とか導入できたとしても、維持管理にコストがかかる上、セキュリティ上のリスクも高まります。システム更新や新しい技術の採用にあたっても、情報収集や評価、導入後の運用体制構築に十分なリソースを割けない、あるいは既存従業員のデジタルスキルが不足している(デジタルスキルギャップ)といった問題が、デジタル化への対応をさらに遅らせる要因となっています。
中小企業が情シスをアウトソーシングするメリットとは?
情シス部門および企業が抱える課題に対し、アウトソーシングは有効な解決策となり得ます。外部の専門企業に情シス業務を委託することで、中小企業は、コストや専門性、戦略、セキュリティ、そして組織体制といった多方面にわたるメリットを受けられるでしょう。
コスト削減と効率化
また、情シス業務のアウトソーシングは、コスト構造の最適化に大きく貢献します。これまで固定費であったIT人材の人件費や設備投資を、利用した分だけ支払う変動費へと転換できるのです。月額料金など明確な費用体系により、運用コストの予測可能性が高まり、予算管理が容易になるでしょう。これにより、事業規模の変動にも柔軟に対応しやすくなります。
また、アウトソーシングベンダーは、多くの顧客を抱えているため、スケールメリットを活かした効率的な運用が可能となるのもメリットのひとつです。これらの効果により、結果として大幅なコスト削減につながるケースも多く見られます。
専門知識とスキルへのアクセス
アウトソーシングを活用すれば、インフラ、ネットワーク、セキュリティ、クラウドなど、幅広い分野の専門知識と高度なスキルを持つ専門家チームへアクセスできます。これにより、最新技術動向を踏まえた最適なIT環境の構築・運用が可能となるでしょう。
また、ベンダーが持つ豊富な経験に基づいた業界のベストプラクティスを導入することで、業務品質の向上も期待できます。複雑なシステムトラブルや専門的な課題が発生した場合でも、迅速かつ的確な解決支援を受けられます。継続的な技術革新が進むIT分野において、常に最先端の知見を活用できることは大きな強みです。
戦略的IT活用への集中
アウトソーシングの利用は、情シス担当者や兼任者を各種業務の負担から解放し、社内の貴重なリソースをより戦略的なIT活用へと振り向けることを可能にします。日常的な運用保守、ヘルプデスク対応、トラブルシューティングといった業務ではなく、本質的な業務に人的リソースを割けるようになるのです。
企業の成長にあたっては、経営戦略と連動したIT戦略の策定、業務改善や生産性向上に資するシステムの企画・導入、データ分析に基づく新たなビジネス価値の創出などの業務が欠かせません。これらのコア業務に集中することで、イノベーションの推進を加速させ、企業の競争力強化に貢献します。
セキュリティの強化
サイバー攻撃の手法は日々巧妙になっており、中小企業を取り巻く環境も決して例外ではありません。アウトソーシングベンダーは、セキュリティ対策も専門分野のひとつとしていることも多く、最新の防御策や高度なセキュリティ監視ツールなどを導入しています。インシデントの早期発見と迅速な対応が可能になる点も利点です。
また、万が一インシデントが発生した場合でも、専門家による適切な対応プロセスによって被害を最小限に抑えることが期待できます。各種法令や業界ガイドラインへのコンプライアンス対応についても、専門的な知見に基づいたサポートを受けられますので、自社単独で高度なセキュリティ体制を構築・維持するように努力するより、専門ベンダーのリスク管理能力を活用する方が効果的かつ効率的と言えるでしょう。
「業務の属人化」を解消する
「ひとり情シス」や少人数体制で起こりがちな業務の属人化は、担当者の不在時に業務が停滞するリスクを孕んでいます。アウトソーシングを導入する過程で、業務内容や手順が可視化され、標準化されたプロセスが導入されることが一般的です。これにより、特定の担当者に依存しない、安定した業務遂行が可能となります。
また、ベンダー側でナレッジが組織的に蓄積・共有されるため、担当者が変わってもスムーズな引き継ぎが期待でき、バックアップ体制も強化されます。業務プロセスが透明化されることで、ブラックボックス化を防ぎ、継続的な改善活動も行いやすくなります。結果として、人材の流動性に左右されない、持続可能なIT運用体制を構築することにつながるでしょう。
情シスアウトソーシング導入の手順
情シスのアウトソーシングを成功させるためには、場当たり的な導入ではなく、計画的かつ段階的なアプローチが不可欠です。現状を正確に把握し、明確な目標を設定した上で、最適なパートナーを選定し、スムーズな移行を実現する必要があります。ここでは、アウトソーシング導入を成功に導くための具体的な手順を4つのステップに分けて解説します。
現状分析と目標設定
アウトソーシング導入の第一歩は、達成したい目標の設定です。下記の順で現状分析や課題の洗い出しを実施し、外注によって何を実現したいのか整理してみましょう。
■現状分析
現在利用しているハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク構成といった既存のIT環境を詳細に棚卸ししましょう。
■情シス業務の可視化
情シス部門が担当している業務内容やそのプロセスを可視化し、どこにどれだけの工数がかかっているかを明らかにしましょう。
■課題の洗い出し
現在抱えている課題、例えば「コストがかかりすぎている」「特定業務の専門性が不足している」「対応が追いつかない」などを具体的に洗い出し、優先順位をつけます。
■目標設定
課題解決のために、どの業務範囲をアウトソーシングするのかを決定します。同時に「運用コストを〇%削減する」「特定の業務対応時間を〇時間短縮する」といった具体的なコスト削減目標や業務改善目標を設定することが重要です。
アウトソーシングパートナーの選定
現状分析と目標設定が完了したら、次は最適なアウトソーシングパートナーを選定するフェーズに移ります。選定に入る前に必要なのは、パートナーに求める条件の設定。
■ベンダー選定基準の設定
自社の業種や規模・求めるサービスレベルなどを考慮し、パートナーに求める要件を検討します。この要件に基づき、インターネット検索や業界の評判などを参考に、自社のニーズに合致しそうな候補企業を複数リストアップしましょう。
■パートナーの選定
候補企業に対しては、具体的な提案やデモンストレーションを依頼し、その内容や対応力を評価します。同時に、サービス内容に応じた参考見積もりを取得し、コストパフォーマンスを比較検討することも重要です。これらの評価と比較検討の結果を踏まえ、最も信頼できるパートナーを選定しましょう。
契約交渉と締結
パートナー候補が決まったら、具体的な契約条件を詰めていきます。必要なのは、委託する業務の範囲、作業内容、責任分界点を可能な限り詳細に確定させることです。曖昧な点を残さないようにしましょう。
次に、提供されるサービスの品質基準や保証内容を定めたサービスレベル合意書(SLA)を作成します。下記はSLAに必要な項目の一例です。
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- パフォーマンス指標(KPI)
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- 障害発生時の対応時間、復旧目標
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- そのほかのサービス内容・品質に関する項目
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- 契約期間、契約更新に関する事項
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- 初期費用・月額費用
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- 追加費用の発生条件
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- 知的財産権の帰属に関する項目
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- 取り扱う機密情報の保護に関する項目
合意書の作成にあたっては、弁護士などの専門家を交えても良いでしょう。問題がなければ正式に契約を締結します。
移行計画の実施
契約締結後は、いよいよアウトソーシングへの移行を実行する段階です。成功のためには、綿密な移行計画が欠かせません。影響範囲やリスクを考慮し、一気に移行するのか、段階的に移行するのかを決定し、詳細なスケジュールを作成しましょう。
計画実行のポイントとしては、以下の2点が挙げられます。
■関係者との情報共有
アウトソーシングは社内の業務プロセスにも影響を与えるため、関係部署や従業員に対して、目的や変更点を丁寧に説明し、協力を得ることも重要です。計画に基づき、データ移行やシステム設定変更などの具体的な移行作業を進めます。
■移行期間中のモニタリング
移行期間中は予期せぬトラブルが発生する可能性もあるため、迅速に対応できる体制をベンダーと協力して構築しておく必要があります。移行が完了した後も、一定期間は運用テストを実施し、問題なく業務が遂行できるかを確認しましょう。
アウトソーシングすべき情シス業務の見極め方
情シスアウトソーシングを検討する際、全ての業務を外部に委託することが必ずしも最適解とは限りません。自社の状況に合わせて、どの業務を内製し、どの業務を外部に委託すべきかを慎重に見極めることが、アウトソーシングの効果を最大化するためのポイントだといえます。
自社で維持すべきコア業務
企業の根幹に関わる業務や、競争優位性の源泉となるようなIT業務は、基本的に社内で維持すべきでしょう。社内で実施すべきコア業務として、ビジネスへの深い理解や独自技術・独自のノウハウが要求されるもの、あるいは機密性の高いデータを扱うものなどが挙げられます。
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- 顧客情報や技術情報を取扱う業務
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- 経営戦略と密接に連携したIT戦略・企画の立案
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- コア・コンピタンス(他社にない強み)に関わるシステムの開発・保守
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- そのほかの業務の根幹をなすビジネスルールやワークフローの設計
アウトソーシングに適した業務とは
一方で、アウトソーシングに適している業務も多く存在します。積極的に外注を検討したい業務として、定型化しやすいものや、継続的な対応が必要とするものなどが挙げられます。
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- 社内ヘルプデスク・ユーザーサポート業務
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- サーバーやネットワーク機器の監視、OSやミドルウェアのアップデート
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- データのバックアップ、災害発生時のシステム復旧(DR)対応
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- 仕様がある程度固まっている定型的なアプリケーションの開発・保守
段階的なアウトソーシング導入という選択肢も
すべての業務を一気にアウトソーシングするのではなく、段階的に導入を進めるのも良いでしょう。必要なのは、自社の課題解決への貢献度が高く、かつ外部委託しやすい業務(例えばヘルプデスクやインフラ監視など)を優先度の高い業務として特定することです。
次に、その特定業務に限定して小規模なパイロットプロジェクトを実施し、アウトソーシングの効果やベンダーとの連携方法などを検証します。このパイロットプロジェクトで得られた成功体験やノウハウを社内で共有し、アウトソーシングへの理解と信頼を高めることが重要です。その上で、効果検証の結果に基づき、徐々にアウトソーシングの対象範囲を拡大していく計画を立てます。
信頼できるアウトソーシングパートナーの選び方
情シスのアウトソーシングを成功させる上で、パートナーとなるベンダー選びは最も重要な要素のひとつです。いくら社内で計画を練っても、委託先の能力や信頼性が低ければ期待した効果は得られません。自社の課題解決に本当に貢献してくれる、長期的な信頼関係を築けるパートナーを見極める必要があります。
実績と専門性の確認
まず確認すべきは、候補となるベンダーの実績と専門性です。自社と同じような業種や規模の企業におけるアウトソーシングの成功事例があるかを確認しましょう。具体的な事例は、ベンダーが自社のビジネスや課題を理解する能力があるかどうかの判断材料となります。
また、自社が属する業界特有のIT要件や規制に関する知識・経験を持っているかも重要なポイントです。担当する技術者の資格保有状況やスキルレベルを確認することで、技術的な信頼性を測ることができます。可能であれば、既存顧客からの評価やレビューを参考にしたり、直接ヒアリングしたりすることも有効でしょう。
加えて、長期的なパートナーシップを見据えるならば、契約期間中に経営が悪化するリスクを避けるため、ベンダーの財務状況の安定性も確認しておきたいところです。
サービス範囲とカスタマイズ性
ほかに重要なポイントとして、提供されるサービスの範囲が自社のニーズを網羅しているか確認することも挙げられます。ヘルプデスク、インフラ運用、セキュリティ対策など、委託したい業務領域をカバーしているかは基本です。
さらに重要なのは、単にパッケージ化されたサービスだけでなく、自社の状況に合わせてサービス内容を柔軟にカスタマイズできるか否かです。将来的な事業拡大や縮小に合わせて、サービスの規模を柔軟に変更できるスケーラビリティも確認しておきましょう。
IT技術は常に進化するため、クラウドやAIといった新技術への対応力や、積極的に取り入れていく姿勢があるか否かも評価のポイントです。また、自社が利用している他のシステムや、別のベンダーとの連携がスムーズに行えるか、サードパーティとの連携能力も確認しておくと良いでしょう。
コミュニケーション体制と対応スピード
アウトソーシングは、単なる業務委託ではなく、パートナーとの連携が不可欠です。そのため、円滑なコミュニケーション体制が構築されているか、そしてトラブル発生時の対応スピードは重要な選定基準となります。自社の業務時間やニーズに合わせて、十分な時間帯をカバーするサポート体制が提供されているかを確認します。
問題発生時に、担当者レベルで解決できない場合に、どのように上位者や専門部署へ報告・相談されるのか、エスカレーションプロセスが明確になっているかも重要です。海外拠点がある場合などは、多言語対応が可能かも確認が必要になるかもしれません。
定期的な報告(レポーティング)の頻度や内容が、自社の状況把握や意思決定に十分な質と量であるかも評価しましょう。また、必要に応じて技術者が直接訪問してくれるオンサイトサポートの可能性についても確認しておくと安心です。
コストと契約条件の透明性
コストと契約条件の明確さ、透明性も、後々のトラブルを避けるために非常に重要です。見積もりには含まれていない「隠れコスト」が存在しないか、契約前にしっかりと確認する必要があります。
契約書類では、提供されるサービスの品質基準や補償条件などについて詳細に取り決めがなされるかチェックしておくべきです。インセンティブやペナルティに関する項目も重要と言えます。
また、契約の打ち切りによる混乱のリスクを避けるため、契約期間の長さや更新時の条件、解約に関する規定も入念に確認しておきましょう。
まとめ
情シスのアウトソーシングは、専門性の高い技術・スキルへのアクセスを容易にしつつ、セキュリティを強化します。経営および内部統制の目線では、コスト構造の転換と効率化を可能にし、業務属人化を解消しつつコア業務における戦略的IT活用に人的リソースを振り向けられるようになるのがメリットです。
外注化を成功させるためのポイントとしては、適切な目標設定や契約条件の細かい設定のほかに、ベンダー選定も大切な要素として挙げられます。
弊社では、最適なアウトソーシングの実現に向けて、課題の見極めからご相談をお受けしています。是非お気軽にお問い合わせください。
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